農村のくらしに「食育」を思う 1
(2007/01/15)


 昨年から放送されているNHK朝のドラマ、田辺聖子さん原作の「芋たこなんきん」をご覧になっていますか。愛子は毎朝欠かさず、ときには午後の再放送を含めて日に二回も和雄に笑われながら見ています。このドラマの中心の場面は居間での大家族の食事風景と、一日が終わる前のちょっと一杯やりながらの夫婦語らいの時間です。

 毎回のように出てくる家庭料理がすばらしい脇役ぶりで、家族の温かさや主人公の愛情を余すところなく表現し、ドラマに深みを与えています。お正月のお祝いのお膳には大阪と奄美地方のお正月料理が供されていましたが、日本の食文化の結晶のように感じました。

 この料理を指導されている土井信子先生(家庭料理研究家)は、夫である料理研究家、土井勝先生が亡くなられた後、ご自身の思いを持って、庶民のくらしの中でつくりあげられ継承されてきた家庭料理のすばらしさ大切さを伝えるための活動を続けておられます。

 この朝ドラに出てくる料理には土井信子先生の手技と心がこもっていて、今までに何度となく、農村の現場で先生からご指導をいただいた愛子にとっては、教えられることがたくさん含まれていて見逃せないのです。

 農村のくらしの中には、「いいな、豊かさってこんなことか」と気付かされることがたくさんありますが、そこにはいつもおいしい料理や楽しい食事の風景があるのです。これは朝ドラの中の風景と重なります。


地域や社会を挙げて子どもの食育を
 2005年に国が「食育基本法」をつくり、それに基づいて2006年3月に国の「食育推進基本計画」が出されました。現在、都道府県と市町村でそれぞれの「食育推進基本計画」づくりが進められているということです。 

 「食育基本法」第7条は、「食育は、我が国の伝統のある優れた食文化、地域の特性を生かした食生活、環境と調和のとれた食料の生産とその消費等に配慮し、我が国の食料の需要及び供給の状況についての国民の理解を深めるとともに、食料の生産者と消費者との交流等を図ることにより、農山漁村の活性化と我が国の食料自給率の向上に資するよう、推進されなければならない」となっています。

 また、「食育推進基本計画」では、「特に、子どもたちが健全な食生活を実践することは、健康で豊かな人間性を育んでいく基礎となることはもちろんのこと、今後とも、我が国が活力と魅力にあふれた国として発展し続けていく上でも大切である。子どもへの食育を通じて大人自身もその食生活を見直すことが期待されるところであり、地域や社会を挙げて子どもの食育に取り組むことが必要である」と、子どもに対する食育の大切さが強調されています。


食育って何ですか
 食育って何でしょうか。食を豊かにすることの大切さを知るために、栄養や衛生や食品の安全性など必要な知識や調理の科学や料理法を教室で学ぶことも大切でしょうが、家族で食べる食事の楽しさや目に染みるような浅漬けナスやキュウリの色、畑で完熟したトマトのさわやかな味やトウモロコシの甘さ、そして、お味噌汁や炊き立てのごはんの匂いなどを、小さい頃から日々のくらしの中で体に刻み込んでいくことが、食べることを大切にしてしっかりと生きていく力の土台になっていくように思います。

 愛子は生活改良普及員として、大阪府下の農家の方々とお付き合いし、農家の生活改善をすすめるための学習活動を支援してきましたが、遅れている、不合理だと考えていた農村のくらしの中にこそ、本当の豊かさ人間らしいくらしのあることを学びました。そして、家族みんなで心豊かにくらしたいという願いの中から、心のこもった温かい食事が生まれることも。
 日々のくらしの中で体に刻み込んでいく勉強こそ本当の勉強なのですね。

 以前にもご紹介しましたが、農村に行くと農家のそばには小さな畑があって、おじいちゃんやおばあちゃんがいろんな野菜や花をつくっておられるのをよく見かけます。今の時期でも、大阪ならダイコン・ニンジン・ホウレンソウ・ネギ・シュンギクや、外葉で包んでわらでくくられたハクサイなどが植わり、その横では、エンドウが支柱に少しツルを伸ばし始め、タマネギの苗が細い葉を寒そうに風に震わせて春を待っているでしょう。畑の隅では、寒さに葉を少し赤くした小菊が咲いています。この畑はおじいちゃんやおばあちゃんの担当で、ときには孫をつれて毎日何度も足を運んで管理されている自家用の畑です。

 朝からお母さんが台所に立って朝食の準備です。炊き立てのごはんとお味噌汁の香りが立ち、もうすぐ食事だと知らせています。味噌汁の具はダイコンとニンジンと油揚げとネギです。食卓の上には樽から出したばかりの白菜漬とホウレンソウのバター炒めを添えた目玉焼きがのっています。

 豪華ではありませんが、わが家でつくったたっぷりの野菜と米、それに手づくりのお味噌と漬物があり、家族みんなで囲む食事です。今年つくる米の品種や野菜の種類、2月から予定している土づくりのことなどが話題になり、味噌の仕込みの予定もここで決まります。子どもたちは「とんど祭り」で、自分の書いた書き初めが誰のものよりも高く高く上がったことをうれしそうに話します。

 こんな、五感を刺激し喜ばせてくれるような朝食が、毎日ではないかもしれませんが農家のくらしにはあります。こんなくらしの中で、心豊かに食べる楽しさやくらしの智恵、そして、家族一人ひとりの大切さが子どもたちの体に刻み込まれていくように思えるのです。


続く⇒