《承前》
推進委員会では、活動の動きや推進委員会の考えを地区住民や街から訪れた人たちに知ってもらうために情報紙を発行し、また地域内の意見や反応を聞くために「都市農村交流活動をすすめるための意向調査」を地域内全戸の世帯主夫婦と若夫婦を対象に実施しました。
この取り組みは、地域の人たちの関心を高めただけではなく、推進委員会の活動の進め方や活動の方向を明らかにしていきました。
意向調査の結果は、「見山が大好き」13%、「見山が好き」46%。見山で大切にしたいものは「豊かな自然」57%、「暖かい人情」27%、「農業」14%となっています。見山の人たちは、豊かな自然と暖かな人情を大切にする見山が好きだという意志を示したのです。
この意向調査の中に交流活動に協力してもらえるかどうかを尋ねた設問がありますが、その回答の選択肢に「協力はしないが邪魔はしない」という項目があります。これは、この頃の役員さんたちの思いを素直に表していると強く感じたものです。
女性たちの活動から、新たな展開
見山生活改善グループは、見山に暮らす女性なら農家でも非農家でも参加できる地域集団であり、みんなで勉強し、くらしを良くし、自分も成長するための学習集団でもあります。
しかし、都市との交流活動をきっかけに、今までグループ活動の中で学び身に付けてきた技を活かして、自慢の加工品を街の人たちに提供し経済的な効果も期待したいという思いが高まり、自家用に生産してきた味噌を、商品として加工し販売するためのグループづくりが始まりました。
みんなで取り組んできた活動から、一部の人たちの願いを実現するための新しい活動を生み出すとき、地域が規制力を発揮し、発展を押さえてしまうことがあります。
見山の女性たちは、話し合い合意することを大切にしながら、自慢の味噌を販売用に製造するグループ「農産加工部」を発足させるために2年をかけることになりました。
この2年間のリーダーたちの苦労は大変のものでしたが、よく話し合うこと、人を信じることの大切さとみんなで取り組めば実現できるということを学びました。
こうして発足した農産加工部が、熱心に活動し地域に認められるようになると、そうざい加工部、菓子加工部、ふるさと料理部、豆腐加工部が次々と発足し、交流活動の中で大きな役割を果たし、この活動が女性たちの「もう一つの夢の実現」につながっていったのです。
もう一つの夢の実現を目指して
1996年の見山生活改善グループと農協女性会の合同総会で、これからの活動について話が盛り上がり、「自分たちの力で、見山の産物が何でも販売でき、鯖寿司など自慢の味を食べてもらえる茶店のある店が持ちたい」「何とか農産加工施設がつくれないだろうか」など夢を語り合いました。
そして、大きなことを考えてもできないけれど、自分たちの力を寄せ合えばできる小さな店から実現しようということを決議し、「もう一つの夢の実現」が女性たちの共通のテーマになったのです。
それから2年、役員たちの協議が繰り返され、農産加工と販売と茶店の機能を持った施設建設を具体化する意志を固めていきました。そして、施設内容や利用計画を検討して資料化し、推進委員会に提案し応援を得て、地域ぐるみで建設に取り組んでもらえるよう働きかけることになったのです。
豊かな自然と美しい農村・農業をまもるための拠点施設づくり
見山の豊かな自然と農業を守り、本当の豊かさのあるふるさとをつくっていくためにはどうしたらよいか。そんな大きな夢を語り合ってきた推進委員会でしたが、28万の人口を抱える茨木市の最北端にある小さな農村部の願いが、茨木市や農協の補助を引き出すことは難しかったし、また、見山の人たちの力で資金を集め、施設を効果的に運営できるのか、高齢化した人たちでどこまで農業を続けられるのかという不安もあり、「もう10年若かったら」という言葉がくり返されていました。
なかなか進まない現実に、いらいらがつのっていた推進委員会の役員会に、女性たちの夢が持ち込まれました。大きな夢を持っていた男性にとっては、「何や、こんな小さいもんか」という思いと「女性の意見がほんまにまとまっとるんか」という疑問がありました。
「できることから進めてほしいです。それで成功したら夢が膨らみます」「各集落ごとの役員もいっしょに話し合いました。リーダー5人は腹をくくっています」という女性たちの熱心さに心を動かされて「せっかくの提案や、前向きに検討してみよやないか」という結論が出されました。
そして、男性たちからも「見山の米づくりを守らんと大変なことになる。土づくりをしっかりして減農薬でつくっている自慢の米を自分らの力で販売してみたい」「野菜や花ももっと売れるようにならんと、農業が続けられへん」など、施設づくりに向けた夢が語られました。
不安の中での出発でしたが、地元で農事組合法人を設立し、その法人が事業主体になるということで、行政も補助金や事業推進への援助を約束してくれたのです。推進委員会では施設建設委員会を発足させ、具体的な取り組みを進めましたが、各集落での合意と協力を得るための話し合いや用地取得のための折衝や協議、資金調達などの他、法人設立のための勉強や役員体制の検討など数え切れない苦労がありました。
しかし、これまでの交流活動や女性たちの活動の成果を土台に、役員さんたちが必死の努力で一つひとつ問題を解決していきました。何度も「もうダメか」という危機もあり、そのたびに「あんなことしたはるけれど、うまいこといくはずないわ」「なんぼがんばって施設つくっても、こんな山奥では野菜や米が売れるはずないわ」などのうわさ話が広がりましたが、むしろその都度、地域の人たちの関心が高まっていったのではないかと思います。
そして1999年11月、115名の組合員を持つ農事組合法人見山の郷交流施設組合が発足し、一年かけて翌年10月に「見山の郷交流施設」(de愛・ほっこり 見山の郷)がオープンしたのです。
農産加工室では特産品になった「竜王みそ」や「見山豆腐」のほか、「草餅」「おこわ」「米粉のパン」や季節の野菜や山菜の佃煮や漬物などがつくられ、茶店では季節の炊き込みご飯と朝から摘んできた山菜の天ぷらうどん、鯖寿司やお餅などが味わえます。
若い人たちも加わって、女性たちは楽しそうにフル回転しています。店舗には農産加工品はもちろん、取れたての見山の野菜やシイタケや花、そして、自慢の「見山のお米」が並べられ、壁面には、高齢者や若妻たちのつくった竹細工やお手玉、ドライフラワーのコサージュなどが色を添えています。
女性たちが夢み、男性たちがともに育ててきた施設で、見山の人たちが生み出した産物が販売され、たくさんの都市住民が訪れています。
この施設は見山の人たちが働き経営する施設であり、見山のこれからの農業を支え、美しい農村景観を守っていくための施設であると同時に、集落を越えた新しいコミュニティ、新しい見山地域を創っていく拠点でもあります。
多くの人たちが関わる取り組みは、運営も難しく苦労の多い仕事です。しかし、自分のためにがんばるときの喜びよりも、みんなのためにがんばることのすばらしさ、楽しさを知っている人たちがいるから、きっと問題を解決しながら少しずつ歩を進めていかれることでしょう。
農村は人間を育てる土壌、そして、都市住民と農家が交流する舞台
ほとんどの人たちが『農』という共通のテーマを持っている、古くから住み続け、よく知っている人たちが集まっている、村祭りや村行事があり、子どもの頃からこれに参加して地域の一員として育つなどの理由で、農村には人々のつながりが強く残っています。この人々のつながりがエネルギーとなって、農村地域に変化をもたらしています。
今、日本中の農村では、古い物を守っていくだけの取り組みではなく、地域の農業の大切さ人々の暖かいつながりの大切さを再認識し、本当の豊かさを求めて、個性的な新しいコミュニティづくりが進められ、新しい文化をふるさとに加えようとしています。
ぜひ、あなたの近くにある農村を訪ねて、農産物の直売所や農業体験の場で農家の方々に話しかけてみてください。きっと、あなたのくらしを豊かにしてくれる楽しいお付き合いが始まることでしょう。