稔りの秋を楽しむ初秋の暮らし 1
(2006/09/15)


 9月の声を聞き、稲穂が重たげにたれ始め、朝夕の涼風が心地よく感じられるようになると、二百十日、二百二十日の台風が気にかかります。

 二百十日は立春から数えて210日目のことで、9月1日(うるう年は8月31日)です。この日は関東大震災の起こった日でもあり、今は「防災の日」になっています。

 最近は稲の栽培が早まり、この時期にはすでに収穫を終えている品種もあるほどですが、昔はちょうど出穂期(しゅっすいき)に当たり、稲の花が咲きそろい、受精がうまくいくかどうかのもっとも大切な時だったのです。この時期に台風が襲来すると、大きな減収につながるため、農家にとっては心配な日でした。二百十日が無事過ぎても、二百二十日頃には次の台風がやってくることが多く、心配は続きます。

 今年は何とか無事に二百十日も二百二十日も過ぎましたが、異常な長梅雨などの影響でしょうか、「今年は良い田と悪い田があって豊作とはいかないね」というのが、今津町の農家のお話です。
 どうか、秋の実りが豊かでありますように、農家の努力が報われますようにと、祈りたくなる秋の初めです。


豊かな実りを感謝する「お月見」
 農家にとってこの時期は、稲刈りの段取りをして秋冬野菜のタネまきや苗作りにも追われる忙しい時期ですが、高くなった青空の下で、サトイモやエダマメ(アゼマメ)、クリやマツタケ、カキなど、秋の豊かな実りがうれしい季節でもあります。

 旧暦8月15日の中秋の名月は、サトイモの収穫の時期で、掘り立ての子イモをお月さまに供えたので「いも名月」とも言われました。今でも、中秋の名月(今年は10月6日)にはお月見だんごと子イモの煮物を13個ずつ三宝にのせて、秋の七草(ススキ・ハギ・キキョウなど)といっしょに、月の見える縁側に飾ってお月見をします。この風習は、平安時代に中国のサトイモの収穫を祝うお祭りが伝わったものではないかといわれているそうです。

 厳しい夏と台風シーズンを乗り越え、実りの秋を迎える喜びと感謝の気持ちが、澄み切った夜空に煌々と輝く月への祈りとなったのでしょう。

 今年も縁側で月の光につつまれながら、「お月見の夜は、長くて細い竹をもって、ご近所の縁側に供えられただんごや子イモを突き刺して盗むのが楽しみやった」と、孫たちにいたずら盛りの子どもの頃の思い出話をされるおじいさんがいらっしゃるかもしれません。

 また大阪府の北部では、旧暦9月13日は「十三夜」、「豆名月」「栗名月」ともいって、実が太り、ゆでて食べるとおいしい時期になったアゼマメの初物やクリを月にお供えして月見をしました。能勢(のせ)クリの産地である能勢町では、この日は「栗節句」ともいって、クリとエダマメをいっしょにゆでて赤飯やだんごとともに神仏にお供えし、特産物であるクリの豊作を祝う風習もありました。

 こうした行事も農家の兼業化が進んで忙しくなり、時の流れが速まる中で簡略化されて、中秋の名月のお月見に一本化されてきているようです。
 今年も能勢町の歌垣(うたがき)地域では、地域の人々が集まって尺八やお琴の演奏を楽しみながら、歌垣山に昇る月を眺めるお月見会が開かれることでしょう。

 能勢町のある農家の女性が、「クリとエダマメをいっしょにゆでると、エダマメの色は悪くなるけれど、味がお互いに引き立てあって格別ですよ」と話してくださいました。昔から、いっしょにゆでてもらったクリとエダマメは、秋の運動会のおやつとしても欠かせないもので、子どもの頃に食べたこの味は、お母さんの味の一つとして体のどこかに残っているそうです。

 たっぷりの濃いめの塩水にクリを入れて火にかけ、沸騰してから1時間ゆっくりとゆでます。ゆで終わりの頃にエダマメを加えて火をとめ、30分ほど蒸らします。こうすると塩味もしみ込み、クリの鬼皮も手でむけるくらいになりますし、クリの渋の影響でしょうか、色は茶色くなりますがエダマメがとってもおいしくなるのです。ぜひ、試してみてください。よりいっそう、秋の夜長が楽しくなるかもしれません。

続く⇒