6月15日更新
ホタルが飛び交う季節です。この間も山の家ではぐれホタルが1匹、スーッと光の糸を引きました。
孫たちと打ち合わせて、いっしょにホタルを追いかけにいくことにしましょう。あくる日には、孫たちが植えてくれたジャガイモの収穫も楽しめそうです。
昨年は、小指の先ほどのかわいいジャガイモを見つけては、「ジャガイモの赤ちゃんだ!」と大騒ぎしていた孫たちですが、今年はどんな表情をみせてくれるでしょうか。
収穫したら、小さな小さなイモまで皮付きのままから揚げにして、お塩を振っていただきます。残ったから揚げのイモは、甘辛く煮付けて夕食のおかずです。「これは、ぼくが掘ったおいも!」「ちがうよ、それはぼくが掘ったんだ!」と、小学校2年生の双子のいたずら坊主たちがひともめするかもしれません。それもまた楽しみです。
5月の連休に植えた夏野菜の苗たちは、その後の少雨、多照という記録ずくめの異常気象にもかかわらず、水の大好きなナスを除いて、何とか順調に育ってくれています。小学校5年生の孫娘の希望で植えた、たった1本のメロンも元気につるを伸ばし、花を付けています。
キュウリが毎日のように収穫できるようになりました。遠くに農園を持つ私たちにとっては、その生長が気になります。できるだけ農園に出かける回数を増やし、出かけたときには大きくなりすぎたものから小さなものまで、たくさん収穫して帰ります。
大きいものは薄切りにして酢の物やポテトサラダなどに、小さなものはそのままでお塩を付けて丸かじり。手頃なものはぬか漬けにしてそれぞれのおいしさを楽しみます。
とくにお奨めの食べ方をご紹介します。収穫適期の取れたてのキュウリを縦半分に割って、味噌マヨネーズを付けていただくのです。
このとき活躍するのが自慢の自家製味噌ですが、味噌だけでは辛すぎるので、すり鉢で摺った味噌に、味を見ながらマヨネーズを加えてよく混ぜ合わせ、好みの味の味噌マヨネーズをつくります。つめたく冷やしたキュウリの淡泊な味と取れたての歯切れのよさに、まろやかな味噌の味が見事にマッチします。
この食べ方は、30年も前に長野県小谷(おたり)村の民宿で教えていただいたものです。民宿に着いてすぐに出していただいたのが、丸のまま冷やしたトマトと取れたてのトウモロコシの塩ゆで。そのおいしかったこと。
そして、夕食に名物の笹寿司といっしょに出てきたのが、縦半分に割っただけの山盛りのキュウリでした。かたわらには小鉢に入ったマヨネーズ味の味噌が添えられています。
女主人に食べ方を伺って笑われました。
「ただ、キュウリに味噌を付けて食べてくださればいいんですよ、こんな食べ方しませんか」と。
言われるままにいただきましたが、山盛りのキュウリがアッという間になくなりました。
大阪に帰ってさっそく試してみましたが、小谷村の味ではないのです。あのときの味に再び出会うことができたのは、農園で新鮮なキュウリが取れたときのことでした。私たちが野菜をつくってみたいと思った原点のひとつが、小谷村でのおいしい経験にあったのかもしれません。
自分でつくった夏野菜たちを思いっきり楽しむには、「ぬか床」を用意し、取れたてのナスやキュウリや小カブラなどを漬け込み、浅漬けでいただくこと。漬物ほど、野菜の新鮮さが生きる食べ方はありません。
《わが家の「ぬか床」の割合》
ぬか:1kg 漬物用の塩:200g 水:1500cc
赤トウガラシ:2本
水に塩を入れて溶かし、そこへぬかを加えながらよく混ぜ合わせ、赤トウガラシもそのまま入れて漬物容器に詰めます。これで「ぬか床」は完成ですが、酸素の好きな乳酸菌を増やして、おいしい漬物をつくってくれる優秀な「ぬか床」に育てるためには、野菜を漬けながら毎日一度はよく混ぜること、そして、清潔に管理することが大切です。
また、あまり室温が高くなると臭くなるため、日中でも締め切って出かけることの多いわが家では、四角い容器を使って冷蔵庫に保存しています。
さあ、新鮮なナスやキュウリに薄く塩をすり込み、「ぬか床」に漬けてみましょう。夏の間、は室温に置いた場合でひと晩、冷蔵庫に保存したときはふた晩でおいしく漬かります。ナスの美しい紫とキュウリの緑が食欲をそそり、食卓を美しく彩ってくれます。ご飯をもう一杯余分に食べたくなるのは、ちょっと困るのですが。
梅雨の合間をぬって草削りもがんばりましょう。また、梅雨の長雨は野菜たちの病気の原因になるのでよく観察し、病気の兆候が見えたらすぐに古い葉や傷ついた葉などを取り除きます。管理をこまめにしてやりましょう。そうすれば野菜たちはきっとたくさんご褒美をくれることでしょう。
6月中旬以降になるとトマト、ナス、ピーマン、三度豆やモロッコインゲンなど、食べきれないほどの嬉しい収穫のシーズンが訪れます。そして、梅雨が終わればスイカやカボチャも大きくなり、農園が最高の実りに輝きます。
山の家を訪れてくれる友人たちに、手料理を食べてもらいながら野菜のでき具合を自慢するのもこれからの楽しみです。
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6月1日更新
5月3日に苗を植えたりタネまきをした夏野菜たちは、その後の気温が低かったせいで、タネの発芽や苗の成長が少し遅れていましたが、このところの晴天でやっと順調に育ってきています。
スイートコーンとエダマメは良い苗を残して間引きをし、トマト、ナス、ピーマンにはしっかりとした支柱を立て、キュウリとインゲンマメにはネットを張り、やっと農園らしい姿になってきました。
私たちが農園に出かけられるのは週に1回程度ですが、これからはできるだけこまめに整枝・剪定や誘引などの作業をして、生長の手助けをしてやろうと思っています。
また、4月13日にタネをまいた葉ダイコンが収穫できるようになり、お漬物にしたりご近所にお裾分けしたりして楽しんでいます。コマツナもほどよく育ち、お揚げさん(うす揚げ)といっしょに煮浸しにしました。取りたての野菜はやっぱりおいしい。
夏野菜の管理とともに、これから大変な作業は何といっても草ひきです。私たちの農園では除草剤を使わずに、畝の表面にマルチを張ったり、通路に防草シートを敷いたりして少しでも雑草を抑える工夫をしています。しかしそれでもマルチとシートの隙間や、土が現れているところにはたくさんの雑草が生えてきます。
農家にとっては、きれいに管理された畑こそ自慢のたねであり、雑草を生やすことは恥ずかしいことなのです。私たちも大切な農地をお借りしているのですから、暇を見つけてはクワで草削りをしています。夏草との闘いは野菜づくり以上に大変です。畝の端から草削りをはじめ、畝の終わりまできて振り返ると、最初に削ったところにまた雑草が生えているといわれるくらいなのですから。
「雑草という草はない」と言っている学者もおられるとおり、生えてほしくないところに生える無数の植物を、私たちが勝手に「雑草」と呼んでいるだけです。人間の生活を基準に植物の価値を決めるのは草たちにとって迷惑なことかもしれませんが、やはり「雑草」には少し遠慮してほしいものです。
沖縄では「ゴーヤ」と呼ばれ、一般的には「ニガウリ」、別名「ツルレイシ」ともいわれる、夏には欠かせない野菜があります。私たちの農園でも毎年これをつくっています。
昨年、老人大学の講義で「アサガオは、花はきれいでも食べられない。ゴーヤは花も咲くし食べられる。アサガオをつくるのならゴーヤをつくっては」とお話ししたことがあります。
講義を聞いていたある学生は、夫の大切なバラの木を無断で切ってしまい、そこにゴーヤの苗を植えたそうです。私は「そこまでせんでエエのに」と思いましたが後の祭。これがなんと、見事に2階のベランダまでつるを伸ばしてたくさんの実を付け、ご近所にもゴーヤを持ってまわったとか。もう卒業されたこの学生、今年も庭先でゴーヤをつくっているでしょうか。
つくり方は簡単。プランターや日当たりのよい小さな空き地があれば栽培できます。6月上旬までに苗を植えるか、1ヵ所に2〜3粒のタネをまき、発芽したら良い苗を残して間引いて1本にします。本葉5〜6枚のころに摘心し、出てきた子づるを3〜4本残して育てます。込み合わないように竹を立てて這わせたり、ヒモで誘引すればあとは収穫を待つだけ。無農薬で栽培できます。7月中旬から次々と収穫できるので、ぜひ挑戦してみてください。
[和雄のひと言]
和雄が毎週金曜日に園芸の講座を担当している、大阪府老人大学の授業がいよいよ始まりました。お陰さまで、今年も定員55名のところに受講を希望される方が124名と、2.25倍の高い競争率になりました。
老人大学は、試験なし推薦なしの公開抽選で入学者を決めています。入学するのに抽選という、これほど公明正大でかつ他人任せな方法もありません。なかには三浪、四浪してやっと入学できた方もおられるほどです。幸運にも合格された学生さんたちと年間35回、計70時間の長丁場の講義を楽しく進めたいと思っています。
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5月15日更新
初夏の爽やかな風が、田植えが終わったばかりの田んぼをやさしく撫でて、小さな波をつくります。転作としてつくられているのでしょうか、ところどころに点在するレンゲのピンクを敷き詰めた田んぼで、子どもづれの家族が遊び、楽しそうな声が青空に響いています。
その横の水田では、残った田植えが忙しそうに進められ、中学生くらいの女の子とおかあさんが稲の苗箱を運んできては、次々と苗を田植機にのせていきます。お父さんはタバコを吸ってちょっと休憩です。腰の曲がったおばあちゃんが、田植機では植えきれなかった田んぼの四隅に挿し苗をしています。
昔は、田植えの時期は学校も「農繁期休み」でした。子どもたちも田植えの大切な労働力で、苗運びなどに家族の一員としてがんばりました。農作業の機械化が進み、「農繁期休み」がなくなって久しくなりますが、田植えは今でも家族総出の仕事なんですね。さあ、私たちの農園でも孫たちといっしょに夏野菜の苗の植え付けとタネまきです。
農協に注文しておいた夏野菜の苗やタネと、予定にはなかったけれど、どうしてもつくってみたくなったゴマのタネとショウガを用意しました。
まずはマルチの穴あけです。マルチの表面の、苗を植えたりタネをまいたりする位置に丸い穴を開けるのです。
粉ミルクやコーヒーの空き缶に長い棒を針金でくくりつけただけの「自家製穴あけ器」に、よく焼けた炭火を入れます。これを穴を開けたいマルチの上に置くだけで、マルチが溶けて缶の大きさの穴が開きます。
この作業をしていると、農家のおじいさんがひょっこりきて、「何してるんや」と声をかけてくれました。「マルチに穴をあけてまんねん」と応えると、「もっと便利な穴あけ器あるがな」と言って自宅に帰り、わざわざ市販の穴あけ器を持ってきて、「これ使い」と貸してくれました。
お借りした穴あけ器は、鉄製のお椀を伏せたような物に1メートルほどの棒が付いていて、そのお椀の中に、さらに土につく部分がのこぎり歯のようになったお椀がもう一つ入っているのです。これをマルチにのせて力一杯まわすとマルチがのこぎり歯で切れて穴があくという仕掛けです。便利なようですが、まわすときにかなりの力がいる代物です。おじいさんが傍にいるので断り切れずに使わせてもらいましたが、すぐに手が痛くなって少々困りました。
私のつくった自家製の穴あけ器は、炭に火をつけるのに少し時間がかかりますが、マルチの上に置くだけでその部分が熱で溶け、いとも簡単に穴があきます。正直なところ、自家製の穴あけ器のほうが私たちには使い勝手が良いようです。
5年生の女の子と2年生の双子の男の子たちは、トマト、キュウリ、ナス、ピーマン、スイカ、カボチャの苗を植え付けて小さな支柱を立て、さらに川から汲んできた水をたっぷりかけてくれました。
昨年は野菜の苗植えよりも、飛び出してきたカエルを追いかけるほうに興味があった双子の孫たちも、指の間に苗をはさみ、上手にポットから苗を取り出し、柔らかく土を砕いたマルチの穴に素早く植えてくれ、子どもたちの成長の確かさにうれしくなりました。
滋賀県の湖北に近い私たちの農園では、日中の温度は大阪とほとんど変わりませんが、夜の気温が低くなるため、植えた苗の周りに4本の棒を立て、底を破って二つ切りにした古い肥料袋をかぶせています。苗が根付くまでの保温と箱館山から吹きおろす強風から苗たちを守るための工夫です。白色や黄色のビニールの囲いが並ぶカラフルな姿はあまり美しくありませんが、苗がしっかり根付くために十分効果があるのですから少し我慢をしましょう。
さあ、田植えが終わって1週間もすれば早苗はみるみる草丈を伸ばし、あっという間に田んぼが緑に変わります。緑に変わった田んぼを「青田」と言い、農家の人たちは、このときの田んぼが一番美しいと感じるそうです。田植えが終わって、この風景を眺めるときの農家の人たちの喜びと安堵感が伝わってくるようです。
農園近くの集落では、田植えがすべて終わるころ(今年は5月29日)「泥落とし」といって村中が休み、神社で豊作祈願をします。その後それぞれの家では、秋の豊作を願って、きな粉をたっぷりかけたご飯を食べるそうです。
大阪でも田植えが終わると、「さなぶり」と言って田植え休みをしますが、このとき必ずつくる料理があります。それは、タコとキュウリの酢の物です。植え付けた早苗が、タコの吸盤のように大地にしっかり吸い付いて、豊かな稔りをもたらしてくれることを願ってつくられるのです。
自然の恵みを受けて営まれる農業は、自然の脅威によってすべてを失うこともしばしばでした。このため、自然を畏敬し豊作を願い続けてきたのが農家の暮らしであり、そのとき必ず祈りをこめた料理がつくられてきたのです。
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5月1日
山の家のまわりは新緑の季節です。毎年春になると、見事に色づきを変えていく自然の見事さに驚き、人間は何と愚かな動物なんだろうかと思わされます。ちょっと寒い日が続くと寒い寒いとおどおどし、暑い日が続くと暑い暑いと文句をいう。
植物は自然の営みを何とおおらかに、そして敏感に受け入れて生きていることでしょう。春が近づくと、気温(正確には気温と地温)と太陽光線(日照)、そして水分など自然の変化を全身で感じ、時がくれば一斉に、ときには1日のうちに新芽を伸ばし、あっという間にあたりいちめんを新緑の風景に変えてしまうのですから。
きっと、私たちが保存している野菜のタネたちも、早く土に埋めてほしいとうずうずしているはずです。
4月5日、仲間3人の協力をえて1日たっぷり農作業をしました。この日の作業は3月に堆肥と苦土石灰(くどせっかい)を入れて耕耘(こううん)しておいた畑に、肥料を入れて耕耘し、マルチを張るのがおもな仕事でした。
私たちの農園は500m2ですが、作業をしやすくするため通路を広く取ってあり、野菜が植えられる畑は幅1m、長さ100mの畝が3本、約300m2です。そこに有機配合肥料(有機肥料と化成肥料が配合されたもの)35kgと油かす35kgを入れ、何回も耕耘(こううん)したのち、ポリマルチを張りました。
午前11時ごろから夕方5時まで休む暇もない忙しい作業で、私も応援の仲間も、腰や膝が痛くなりたいそう疲れました。でもこの作業を済ませないとタネまき、苗の植え付けができないのですから大事な作業です。
仲間のひとりが、大きさと重さを競うコンテスト用のジャンボカボチャのタネを持ってきてくれました。この仲間の挑戦を受けて、ジャンボカボチャづくりをしようと、タネを3粒まきました。うまくいけば1個で100kg以上になるとのこと、秋の収穫が楽しみです。
4月13日の朝一番に近所の友だちから「今日は畑に行かへんのん」と電話がかかってきました。ちょうど前夜からの雨も上がり絶好のタネまき日和です。早速、私たち夫婦と友だちの3人で、電車で農園に出かけました。京都からトンネルを抜けて滋賀県に入ると、キラキラと陽差しが踊る琵琶湖を右に、左には比叡山から比良山への山並みが連なり、芽吹き始めた山々を彩るサクラやコブシ、ミツバツツジに歓声を上げながらの楽しい1時間の旅です。
畑に出ると、ちょっと冷たい箱館山からの吹き下ろしの風が、先に張っておいたマルチをめくり上げていました。早速マルチを張り直し、軟弱野菜を植える予定にしていた畑に、コマツナ、小カブラ、ニンジン、葉ダイコンのタネをまきました。その横の畑では、アスパラガスが芽を伸ばしかけていました。
午後からは、山の家の周辺の林や田んぼの畦で、ワラビ、ツクシ、ノビル、山ブキ、ヨモギ、セリ、イタドリを摘み取りました。その日の夕食は、山菜の天ぷらでたっぷり春を味わいました。
小学校5年生になる孫に、「ツクシをたくさん採ってきたよ」と電話をすると、「100本食べるから炊いといて」とのこと。早速、甘辛く炊きました。今度の土曜日には、大阪の我が家に遊びにきてくれるようです。
5月のゴールデンウイークには、娘の家族も一緒に、本格的なタネまきと苗の植え付けをします。今年は、トマト、ナス、キュウリ、ピ−マン、シシトウを各10本ずつと、スイカ6本、カボチャ3本の苗を植え、スイートコーン150本、エダマメ100本、インゲンマメ10本のタネをまきます。
その他に、サツマイモの苗を少し欲張って200本ほど植え、都会暮らしの老人大学の皆さんや私たち夫婦の仲間と収穫祭をする予定にしています。
[和雄のひと言――野菜を育てる]
よく園芸の本に「野菜づくり」という言葉が使われますが、私は、野菜はつくるのではなくて育てるのだと思っています。
人間の子育ては並大抵のことではありません。野菜も同じで、育てるには苦労もあり手間もかかります。
「野菜は、つくり主の足音を聞いて育つ」といわれるように、手をかければかけるだけ必ずそれに酬いてくれるはずです。だからこそ、子どもを育てるのと同じように、野菜を育てることは面白いしすばらしいのではないでしょうか。 しかも、最後には食べる喜びまで与えてくれるのですから。
今年も「野菜を育てる」という心意気で臨みたいものです。
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4月15日
大阪河内地方の農家では、3月の声を聞くと、枯れ草をかき分け、若緑の柔らかいヨモギの芽を摘んで草餅をつきます。これをたっぷりの小豆あんであえて重箱に詰め、近所や親戚に配るのです。
このお餅は「春ごとの和え餅」と呼ばれ、毎年この餅をついて春の到来を祝い、米づくりの準備を始める心づもりをするのです。
滋賀県高島市今津町にある私たちの山の家では、4月になってまわりの木々が芽吹き始め、少しずつ白っぽい緑に包まれてきました。渡る風さえ優しさを増してなんとなくいい香りがします。フキノトウも15cmほどに背丈を伸ばして花を咲かせ、ツクシもぐっと大きくなりました。さっそくツクシを摘んできて「はかま」をていねいに取り除き、サッとゆでてからゴマ油で炒め甘辛く煮付けます。孫たちの好物です。
これからまわりの林では、タラやコシアブラの芽、山ブキ、コゴミ、ワラビ、イタドリ、ゼンマイ、お茶の若葉など、食卓を楽しくしてくれる食材が次々と顔を出してくれます。
山の家を訪れてくれる人があると、まわりにある山菜などを摘んで、片栗粉でつくった薄い衣を付けてパリッと油で揚げ、お塩をふって食べていただきます。山ブキの小さな葉の爽やかな苦み、イタドリの柔らかい先端部分の酸味、お茶の若葉の甘みはとくに好評で、豊かな自然の中で食べる山菜は春を満喫させてくれると喜ばれます。
農家の人たちはこの時期、近所の人と誘い合って山に入り、ワラビやゼンマイやイタドリをたくさん摘み取り、塩漬けや乾物にして保存して一年中楽しみます。
しかし、旬の味わいはまた格別。雪の中に囲っておいたハクサイやダイコンなどを食べ尽くして青菜の恋しくなるこの季節、新鮮な山菜はご馳走です。
手でポキッと折れる柔らかいワラビを摘んで鍋などに入れ、ふた握りほどの木灰(少量のタンサンでも可)をふり、熱湯をたっぷりかけて蓋をし、そのまま冷めるまでおきます。この間にアクが抜け食べごろの柔らかさになるのです。灰をきれいに洗い流したワラビの深い緑は見事で、おいしいだし汁とかつお節をたっぷりかけていただくと最高です。五感を喜ばせてくれる春は嬉しい季節です。
このように、自然に感謝し、四季の幸をまるごと味わう農家の暮らしはほんとうに豊かです。
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箱舘山を望む農園 |
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左から順に孫ふたり、
愛子、耕耘機 |
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家族が並んで土づくり |
4月1日
農業改良普及員、生活改良普及員として40年、大阪府の農村で仕事を続けてきた私たち夫婦が、退職を機に滋賀県高島市今津町の広々とした農地の一角に畑を借り、野菜づくりを始めて4度めの春を迎えました。
目の前に柔らかい稜線を見せる箱舘山は雪を戴き、その山頂に向かって一直線にのびあがるゴンドラは、今もスキー客を運んでいます。でも、山全体は何となく温み、遥かに見える琵琶湖のかがやきに、「春だね」と呼びかけているようです。
その麓にある私たちの畑は、つい先日まで15cmほどの雪に覆われていました。ジャガイモを植える準備もままならず、やっと3月11日に、和雄が講師を務めている大阪府老人大学園芸科OB11名の応援も得て、畝立て、施肥、約120株のジャガイモの植え付けとマルチ張りができました。「ジャガイモは春を待ちかねて植える」といわれるとおり、本当に待ちかねた春の到来です。
ところが、その翌日から春の寒波で、3月13日には30cmの雪がジャガイモ畑を包みました。昔から関西では「奈良のお水取りが済まないと春は来ない」といわれ、滋賀県では「比良の八荒、荒れじまい」といい、3月20日が過ぎないと本格的な春は来ないとされています。今年はそのとおりの気候となりました。
3月19〜21日の連休は久しぶりの農作業日和。孫たちも一緒に春夏野菜のために土づくりをしました。近くの酪農家に運んでもらった牛糞堆肥を畑全面にふり、大きくなった孫たちも交代で耕耘(こううん)作業です。耕耘機に引っ張られて歩くのも疲れますが、ほっと手を休めて箱舘山を眺める時の爽やかさと春風の心地よさは、何にたとえたらいいのでしょうか。
耕耘作業が終わったら、孫たちは早速「ふきのとう」と頭を持ち上げたばかりの「つくしの赤ちゃん」を見つけて大はしゃぎです。空には揚げひばりの声が響いて、嬉しい一日でした。
さあこれでひと安心。4月初めには再び施肥と畝立て作業をし、マルチを張って、春夏野菜たちのタネまきと苗の植え付け準備の完了です。
[和雄のひと言――「蛍の光」]
去る3月12日、大阪府老人大学26期生約1400名の修了式があり、私にとって3回目の修了生を無事送りだすことが出来ました。式は月並みなものですが、いつも全員で歌う「蛍の光」には感激させられ、一緒に歌っているこちらも涙ぐんできます。
たぶん、この歌を歌うのはほとんどの方が40年以上ぶりでしょう。私が担当している園芸科の一番年長の方にいたっては「陸軍幹部候補生、予備士官学校卒業式」以来、何と61年ぶりだということで「感無量です」とのお言葉をいただきました。
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