『中国古典文学挿画集成(八)小説集〔二〕』

本体75,000円+税

ISBN978-4-86361-021-7

瀧本弘之 編

B5判上製箱入/約630頁

「殷周革命」を幻想小説化した『封神演義』の精緻な挿画全公開をはじめ、
隋・唐から宋・元・明の時代と英雄を描く歴史演義小説の重要作品を収録。
新発見の朝鮮本も全図掲載!

【刊行のことば 編者:瀧本弘之】

 本書には、殷の紂王と周の武王の時代を奇怪な想像力で描き、中国の歴代大衆をとらえて止まない神魔小説の傑作『封神演義』をはじめ、歴史演義小説の白眉というべき数々の作品を完全収録した。隋唐の興亡を描く『徐文長評唐伝演義』、岳飛の活躍を取り上げた『大宋演義中興英烈伝』、また明の太祖・朱元璋の国興しを伝奇化した『皇明雲合奇踪』、そして宋代の伝説的な一族・楊家の活躍を述べる『楊家府世代忠勇演義』である。内閣文庫に秘蔵される『封神演義』の全像公開は画期的であり、また『大宋演義中興英烈伝』と、新発見朝鮮本『精忠録』の挿絵二種類を併せて比較できることも学術的な意義が大きい。東アジアの版本の流通の一端が明らかにされる。
 どの作品もテキスト表現と競合する画工の研鑽の後がうかがえる優れたもので、当然ながら藝術性もきわめて高い。しかも大型図版での全面公開は、今回がはじめてである。これよって、古典小説における図像表現の知られざる側面に光が当たり、学際研究が進展することが大いに期待される。

【本書を推薦します】

東アジア全体を視野に入れた挿絵研究を後押しする快挙

金 文京(京都大学人文科学研究所教授)

 近年の中国通俗小説研究は、従来の『三国志演義』『水滸伝』など、世にあまねく知られた四大奇書から、これまであまり顧みられなかった群小の作品へと視野を広げつつある。研究の蓄積がようやく小説史全体を俯瞰する高みにまで達したのである。もうひとつの新しい傾向は、小説における挿絵の重視である。中国の通俗作品の多くは挿絵をともなうが、従来の研究は作品の内容、背景など文字の方にばかり目が行き、挿絵は度外視されがちであった。しかし当時の読者が挿絵と本文を同時に享受したことに鑑みれば、挿絵は小説研究にとって本文と同じ重みをもっているはずである。研究史のこの盲点を補うためには、美術史とりわけ版画研究の専家の協力が必要であろう。瀧本氏はこれまで長年、中国版画研究に従事され、すでに『中国歴史・文学人物図典』『中国神話・伝説人物図典』『中国歴史名勝図典』などの好著を世に送り出し、研究者に便宜をあたえ、また中国に関心のある多くの人々の目を楽しませてくれた。今回刊行される『中国古典文学挿画集成』の『小説集(二)』は、既刊の四大奇書などに続き、『封神演義』『隋史遺文』など、まさに現在の研究が注目する小説群を収める。研究の進展と歩調を共にするものであると言えよう。特にこのシリーズには中国版本だけではなく、朝鮮刊『中興英烈伝』が含まれる。近年、韓国では中国版本にもとづく朝鮮王朝時代の翻刻本の発見が相次ぎ、小説史の研究は中国中心から東アジア全体へと視点を移しつつある。今回の挙はそのような動向とも合致するものである。瀧本氏の版画刊行もいよいよ佳境に入ったと言うべきであろう。多くの研究者、中国小説と美術の愛好家とともに、本書の刊行を刮目して待ちたい。

【第八集「小説集〔二〕」構成】

『新刻鍾伯敬先生批評封神演義』二十巻一百回
明金閶舒冲甫刊本[蘇州](国立公文書館内閣文庫蔵)
『剣嘯閣批評秘本出像隋史遺文』六十回十二巻首一巻
明袁于令撰崇禎六年(1633)序刊本[蘇州](早稲田大学図書館蔵)
『新刊徐文長先生評唐傳演義』八巻九十節
明熊大木撰明徐渭評万暦四十七年(1619)藏珠館刊本[武林](内閣文庫蔵)
『新刊大宋演義中興英烈傳』八巻十八則
明熊大木撰嘉靖三十一年(1552)楊氏清白堂刊本[建陽](内閣文庫蔵)
*参考図版 朝鮮活字本『精忠録』癸酉本(宮城県図書館蔵)及び戊申本(埼玉大学図書館蔵)
『鐫出像楊家府世代忠勇演義志傳』八卷
明秦淮墨客校万暦三十四年(1606)序臥松閣刊本[金陵](国立国会図書館蔵)
『皇明雲合奇踪』十六卷八十則
明徐渭撰明朱鴻亨等校万暦四十四年(1616)序刊[武林](国立国会図書館蔵)
解題(1)「歴史演義小説及び神魔小説に関する覚書」瀧本弘之
解題(2)「岳飛をめぐる通俗小説の挿画」大塚秀高

【本書の組見本】※拡大表示(画像をクリックして、さらに拡大してご覧ください)

【「中国古典文学挿画集成」全巻の構成・推薦者】※拡大表示(画像をクリックして、さらに拡大してご覧ください)