暮らしの中の主役、農村のお年寄りの働き 1
(2006/11/15)


  「おばあさんが孫を代理出産」という先日の新聞報道に、「おばあさんの役目がそこまできたのか」と驚かれた方も多いのではないでしょうか。

 若い夫婦の共働きが増え、その上労働時間が伸びて女性も男性並みに働くことが要求されています。こんな社会の中で、自分の能力を生かした仕事をしたい、働きながら子育てする苦労が大変だなどといった思いからでしょうか、結婚しない若い人たちが増えていますが、それでも共働きしながら子育てにがんばっている人たちもたくさんいます。

 働く条件が厳しさを増す中で、共働きをする娘や息子夫婦と孫たちのために、子育てや家事の手伝いなど、おばあさんおじいさんの役割が大きくなってきているようです。

 孫を有名な私学に通わせるために、平日は共働きをしている娘の家でくらし、週末だけ夫の待つわが家に帰る方、厳しい労働条件の中でうつ病を発症した夫や、登校拒否の子どもを抱える娘の家族を支えておられる方、食べ物の大切さや自然にふれる愉しさを孫に伝えたいと、自分の子育てのように孫たちにかかわって忙しい方など、私たちのまわりにもがんばっている高齢の方々がたくさんおられます。

 今の社会の歪みを高齢者がカバーするなんて、何だか少しおかしい気もします。でも「しんどい、しんどい」といいながら、子や孫たちのために、今できることをやりきるのも生き甲斐につながっているようですし、高齢者が長い人生でつかんだ大切なものを、社会の真実を見抜く目を、くらしの中で子や孫に伝えていくために必要な時間なのかもしれません。


農村のおじいさんおばあさんはどうして幸せ
 随分前のことになりますが、高齢化の進行が問題になり出した頃、普及員としての仕事の中で、「農村の高齢者の役割と幸福度」について調査をし、その結果に驚いたことを憶えています。

 その頃、都市部では核家族化が進行し、高齢者の孤独死や生き甲斐を持てないくらしが社会問題になっていたのに、調査対象になっていただいた農村の高齢者の80%ほどが「幸福だ」と回答されたのです。

 農村では兼業化が進み、おじいちゃん、おばあちゃん、お母ちゃんが支える「三ちゃん農業」だといわれた頃でした。男の人たちが他産業に働きに出て、農作業を高齢者や女性が中心になって担い、負担が大きくなっていたのですが、どうしてこんな調査結果になったのでしょうか。

 この調査の中で、「家の中に農業という手慣れた自分の仕事がある」「米や野菜づくりの技術を若い者に教えてやれる」「自分が中心になってやる家の行事がある」「村や近所付き合いの仕方などを若い者に教える」などの高齢者の役割と、「村の中には親しい人たちがたくさんいる」ことが、幸福度を高めていることが判りました。

 厳しくて汚いといわれていた農作業を担っているという責任と、煩わしいといわれていた農村のお付き合いが、高齢者の幸せをつくる源だったようです。


土に馴染んで草を抜く人
 私たちの農園の隣の畑で、今年もアズキのサヤ摘みをされるおばあさんの姿がありました。「ごせいが出ますね」と声をかけた私たちに、「今年もなかなかマメの入りがようてなあ」とうれしそうに答え、アズキ畑に埋もれながら根気のいる作業を続けておられました。

 普及員現職の頃、担当地域の農村で畑仕事をされるお年寄りたちに声をかけ、空いた畝にお尻を着けて座り込み、いろんな話を聞かせていただきましたが、そんなとき、話をしながらでもおばあさんの手は、畑の小さな草を抜いているのです。その手は無意識に動いているようで自然です。

 「畑の草は大きくなってタネを飛ばすようになってから抜いても、毎年芽を出してはびこり大変な目に会う。小さいうちに抜き取ってしまうときれいな畑になる。出てきたらすぐに抜いてしまう、草との競争です」という話を聞いたことがあります。

 何代にもわたる人たちが自然の営みに学び、工夫してきたくらしの知恵が農村にはいっぱいあります。その知恵を受け継ぎ体に染み込ませて、長年農村で生きてきたお年寄りたちだから、土に馴染み、自然と一体になれるのかもしれません。

 こんなお年寄りたちのくらしを見ていると、無駄なところに力こぶを入れて悩んだり、腹を立てている自分たちの愚かしさが恥ずかしくなります。


続く⇒