男子の遊び

子供のころのことを思い出すと妙な気持ちになる。なぜあんな変わったことをしていたのかとか、なぜあんなものに執着していたのかとか。冬でも半袖の体操着で登校したり、学校中のサルビアの花の蜜を吸って全滅させたり、長い氷柱を見つけてはそれをへし折って舐めて帰ったり。育ったまちが田舎で、娯楽がなかったから、学校帰りに寄り道すると言えば冷房の効いた郵便局に行くことがせいぜいだった。子供時代は恥ずかしい。どうしようもないことを沢山してきたので、あまり思い出したくないのだが、公園に咲くサルビアを見ると、ああこれって甘いんだよなとまず味から入ってしまう。そして思い出すのは男子のこと。なぜか彼らは棒切れを道々で確保し、それを振り回しながら帰るのだった。

「男は棒を振り回すことが好きなんですよ」とはミュージシャンの奥田民生の言葉だ。なるほど、釣り、野球、ゴルフと、彼らが好きな遊びはことごとく棒を振り回すものばかりである。やはり男子の根底には自分用のいい感じの棒切れを見つけて、それが登校時ならば放課後まで誰にも見つからないようにと隠し場所まで決めていた「愛棒期」とも言える子供時代があるのだなと思ってしまう。

今、男のひとの遊びといえばなんだろうか。車? バイク? パソコン? ゲーム? どれもわたしの恋人だったひとたちが夢中になっていたものではないので親しみがない。車好きのひとがいたにはいたが、レース場やパーツ屋に連れていかれるたびに、それが原因ではないと思うがどんどん彼に対して冷めてしまい、すぐに別れをむかえてしまった。スポーツ観戦が趣味というひともいなかったな。ましてやスポーツ自体を楽しんでいるひとなど。若いせいもあったろうが、ほとんどのひとが日々の生活を送ることに精一杯、少ない時間で好きな音楽や本を静かに楽しむひとばかりだった。

楽器を弾くひとがいた。部屋の隅にエレキギターがあって、時おり奏でてくれた。「ミュージシャンになろうと思わなかったの」と聞くと「そこまで上手じゃないよ」と謙遜する。「バンドってチームワークだから向いてないし、曲も作れないし」と重ねられて、ああこのひとはもっと若いころ、音楽が原因で辛い目にあったりしたのかなと想像したりした。男子の趣味は、あんがいもろい。

遊びといえば「女」でしょうというむきもあるだろう。女遊びが激しいひとなどいただろうか。女性が相手をする飲み屋やいわゆる風俗。うーん、これもみんなお金がかかるものばかりだ。それにハマって大変なことになったひとはいなかったな。そんなお金があれば普通に飲みたい、と思ってくれるひとばかりで良かったと思わないでもないが、「風俗だって浮気のうちよ!」と彼を責め立てたり、キャバクラ嬢との密会の場面を見つけて修羅場になったりする経験というのも、しておいてもよかったのではないかと思ったりする。

ところで、スポーツ観戦だ。

その行為にまったく興味も関心もなかったのだが、最近、遠い親戚の、とあるひとりが運良く野球選手になり、どんなものかと彼のチームの試合を見に行った。そこからわたしは野球を見るのが結構好きになったのである。棒を振り回す男は、やっぱりいい。そして自分が男だったらぜひ棒がらみの趣味を持ってみたいと思う。それにはお金がかかりそうだから、まずは余裕のある男を目指すのだ。奥田民生のように。



 象の脚みたいな樵のたくましい幹にふれればひんやりとして

松井多絵子『厚着の王様』

11/10/03 up
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