『フェアリー・レルム』
『フェアリー・レルム』(童心社)というファンタジーのシリーズを翻訳中である。
主人公の少女ジェシーがある晩、山麓にあるおばあちゃんの屋敷の庭の奥で、ふしぎな呼び声を聞く。三人の妖精がおばあちゃんを呼びにきたのだ。おばあちゃんがじつは妖精の国の元女王で、今その国が危機に瀕していると聞いたジェシーは……?
小学生の男の子を中心に人気が高い『デルトラ・クエスト』の著者、エミリー・ロッダさんによる全10巻の新シリーズ。こんどは女の子と元・女の子たちのあいだに着々とファンを増やしているようだ。「早くつづきがよみたいです」と、可愛い便せんに幼い字でていねいに書かれたファンレターが届くと、訳者として、元・女の子のファンの一人として、踊り出したくなるほど嬉しい。
それにしても"レルム"とは、少々耳慣れない英語ではなかろうか。
辞書によれば、realm とはもともと領域とか世界という意味で、the realm of imagination といえば想像の領域。the realm of nature で自然界。他に王国(kingdom)という意味もあり、the realm of England のように使う。
日本語版のタイトルを決めるとき、参考として作者に伺ったところでは、kingdom でもいいのだが、あえて古風で繊細なこの言葉を選んだとのことだった。なるほど、代々女王が支配し、花の妖精や虹の妖精が活躍する優雅な妖精の王国が Fairy kingdom のはずがない(太っちょの王さまがでてきそう)。
日本語のシリーズタイトルを決めるときには、版元から私にもアイデアを出すようにとお達しがあったのだが、これがなかなか。『妖精の国』、『妖精の王国』は平凡すぎて、インパクトに欠ける。『フェアリーの国』も同じ。
最終的には原題そのまま『フェアリー・レルム』でいきましょうということになった。
ちょっと難しくないかな、読むときにうまく舌が回るかしらと密かに心配したものの、意外や意外、子どもたちには抵抗なく受け入れられたようである。
最近の子どもさんはカタカナに強いですよ、とは担当編集者さんの言。タイトルは口にしやすく、覚えやすく、が基本だが、できれば短縮できるようにというのが近ごろは大切であるらしい。「テニスの王子様」が「テニ王」とか。ただし「フェアリー・レルム」はそのまま「フェアリー・レルム」でとおっているそうだ。一語として言いやすいのかもしれない。
子どもの名前のつけかたみたいですね、と私は言い、そういえば最近は妙なカタカナ名前の子が多いなあ、とちょっとまゆをひそめたら、レルムとはどういう意味なのか、じっさいには何を指すのかが、読者にきちんとわかるような方針で編集しますと担当さん。ありがたいことにそれを実行してくださった。大好きな作品をひとりでも多くの読者、とくに幼い読者に楽しんでもらいたいという彼女の熱意にはいつも頭が下がる。華やかで楽しい作品にひかれて、毎日夢中でキーボードを叩いていたら、いつのまにか空が高くなっていた。
宿題のノートの上の秋あかね 好惠
うちの大ねこは寝ている。かってに夏休みを取っていると思ったら、そのまま秋休みに入ろうというつもりか。名前を呼んでも振り向きもしない。